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プランドプーリングの「ずれ」を深掘り——mod演算で模様を設計する

プランドプーリングの「ずれ」を深掘り——mod演算で模様を設計する
【読了時間:約12分 / 要約のみなら3分】

この記事で分かること(3行まとめ)

  • プランドプーリングの模様は 1段の目数 mod 色の周期 (割り算の余り)で決まる
  • ずれ0で縦ストライプ、ずれ1で斜め、半周期でチェッカーボード——たった1目の差でパターンが激変する
  • 往復編みと輪編みでパターンが変わる理由は、奇数段の編み方向の反転にある

段染め糸で編み物をすると、目数によっていろんな模様が現れます。縦ストライプになったり、斜めに流れたり、ダイヤモンドが浮かび上がったり。

実はこれ、偶然ではありません。段染め糸の色は一定の周期で繰り返されていて、この周期と1段の目数の関係——もっと具体的に言うと「割り算の余り」——が、色の配置パターンを決めています。この関係を意図的にコントロールする技法が プランドプーリング (Planned Pooling)です。

今回、この仕組みをリアルタイムで確認できるシミュレーターを作りました。スライダーを動かしながら読むと、modの感覚がつかみやすいと思います。


結論:模様は「割り算の余り」で決まる

プランドプーリングの原理は、中学で習う mod(剰余)演算 です。

  • 色の周期(k目):段染め糸の色が一巡する目数
  • 1段の目数(n目):編み地の横幅
  • ずれ量:n mod k(nをkで割った余り)

このずれ量と、輪編み/往復編み の選択でパターンが決まります。

パターンイメージずれ量編み方概要
縦ストライプ縦ストライプ0輪編み毎段同じ位置に同じ色。真っ直ぐな縦線
斜めストライプ斜めストライプ1輪編み毎段1目ずつ右にずれて斜め線になる
逆斜めストライプ逆斜めストライプk - 1輪編み斜めストライプの逆方向(左上がり)
アーガイルアーガイル色設定次第往復・3色以上ダイヤモンドを細い斜め線が横切る菱形模様
チェッカーボードチェッカーボードk / 2輪・1色1目2色が交互に並ぶ市松模様

一つずつ見ていきます。


【基本】色の「周期」を数える

段染め糸のカラーサイクル

段染め糸は、複数の色が一定の順番で繰り返されています。たとえば、ティール5目→オレンジ5目→ティール5目→……という糸なら、色の周期は10目 です。

なぜ色が周期的に繰り返されるのでしょうか?

それは段染め糸の染め方に理由があります。

糸は「かせ」と呼ばれる大きな輪の状態で染められます。かせを折りたたんで、区間ごとに異なる色に浸していきます。

このとき、折りたたんだ端の色はかせ1周で1回 しか現れませんが、中央の色は2回 現れます。輪を解いて1本の糸に戻すと、この染めパターンが周期的に繰り返されます。

プランドプーリングでは、この かせ1周分(染め基準)を1段で編みきる のが基本です。すると、次の段でも同じ色の並びが現れる。ここで1色分ずらして編むことで、段ごとに色が少しずつずれていき、アーガイル柄の模様が生まれます。

ただし、染料の浸透具合によって色の長さには多少のばらつきがあります。そのため、実際のプランドプーリングでは 目数よりも色を優先 して、色の切り替わりに合わせて編み目を調整しながら進めます。シミュレーターでは理想的な等間隔として計算していますが、実際の編み物では「編んではほどいて色の帳尻を合わせる」作業が発生します。

色の周期の数え方は、実際に編んで数えるのが確実です(1色あたり何目で次の色に変わるか)。3色以上の段染め糸でも考え方は同じです。赤3目→青4目→黄3目で繰り返すなら、周期は3 + 4 + 3 = 10目 。色ごとの目数が違っても、1周期の合計が「k」です。

1段の目数で割った余り

1段にn目編むと、段の最後で色サイクルの途中にいることになります。その位置が「次の段の開始色」を決める。

数式で書くと:

ずれ量 = n mod k

たとえば、周期k = 10の糸を41目で編むと:

41 mod 10 = 1

つまり、2段目は1段目より色が1目分ずれた位置から始まります。3段目はさらに1目ずれる。この積み重ねが模様を作ります。


【分類】ずれ量で変わる模様の世界

シミュレーターを開いて、実際にずれ量を変えながら確認してみてください。色2色(各5目、周期10目)の設定がデフォルトです。

ずれ = 0:縦ストライプ

1段の目数を色の周期の倍数にすると、ずれ量は0。毎段同じ位置に同じ色が来るので、縦に真っ直ぐな線が現れます。

  • 周期10目の糸を50目で編む → 50 mod 10 = 0

最もシンプルなパターンです。段染め糸で縦ストライプを出すには、この条件を守ればいい。

🧶 試してみる: 2色×5目、50目/段、輪編み

縦ストライプのパターン

ずれ = 1:斜めストライプ

ずれ量が1だと、毎段1目ずつ色が右にずれていきます。結果として右上がりの斜めストライプ が現れます。

  • 周期10目の糸を41目で編む → 41 mod 10 = 1

プランドプーリングの定番パターンです。往復編みだと、奇数段の反転によってジグザグになります。この違いは後の深掘りセクションで詳しく説明します。

🧶 試してみる: 2色×5目、41目/段、輪編み で斜めストライプを確認。往復編みに切り替える とジグザグに変わります

斜めストライプのパターン

ずれ = k - 1:逆斜めストライプ

ずれ量がk - 1(= 周期の1つ手前)だと、1目ずつにずれます。ずれ = 1の鏡像です。

  • 周期10目の糸を49目で編む → 49 mod 10 = 9 = 10 - 1

「1目少なくする」のと「k - 1目多くする」のは、modの世界では同じことです。

🧶 試してみる: 2色×5目、49目/段、輪編み

逆斜めストライプのパターン

ずれ = k / 2:チェッカーボード風

ずれ量が周期のちょうど半分だと、色が交互にずれてチェッカーボード風 のパターンが現れます。ただし、1色あたりの目数が多いと「横長ブロックの市松」になります。1色1目(cycle=2)なら、ずれ = k/2 = 1 で完全なチェッカーボードとなります。

  • 周期2目(1色1目)の糸を45目で編む → 45 mod 2 = 1 = k/2

なお、1目1色で編む編み方の場合、メリヤスや細編みの1目はとても短いので、そのような短い長さで色が変わ染ような色の染め方は方の少ないのが現実です。この場合は、玉編み(かぎ針)やボッブル編み(棒針)のように1目である程度の長さを必要とするボコボコとした編み方で調整するのがおすすめです。

🧶 試してみる: 2色×1目、45目/段、輪編み → 完全なチェッカーボード

チェッカーボードのパターン

その他:斜め格子

ずれ量が2, 3, 4……の場合は、それぞれの角度で斜めにずれるパターンになります。ずれ量が大きいほど傾きが急になります。

  • 周期8目の糸を42目で編む → 42 mod 8 = 2 → 2目ずつずれる斜め格子

🧶 試してみる: 2色×4目、42目/段、輪編み

全パターンに共通するのは、ずれ量が小さいほどパターンの繰り返し周期が長くなる (1目ずつずれるので一巡するのに多くの段が必要)ということです。


【実践】シミュレーターで試す

理屈はわかったのではないでしょうか。

しかしながら、modの数字だけ見ても模様のイメージは湧きにくいですよね。

そこで、プランドプーリング シミュレーターを作りました。色の数と各色の目数、1段の目数を設定すると、30段分のパターンがシミュレートされて表示されます。

おすすめの試し方

  1. 縦ストライプ → ずれ = 0、輪編み
  2. 斜めストライプ → ずれ = 1、輪編み
  3. チェッカーボード → 1色1目、輪編み
  4. アーガイル → 3色、往復編み

特に面白いのは「+1」「-1」ボタンで目数を1つずつ変えていくことで出てくる模様のちがいです。たった1目の差で模様が激変する瞬間が見えます。

応用:3色以上で遊ぶ

2色だけでも十分面白いですが、色を増やすとパターンの幅がぐっと広がります。

設定目数/段モード結果シミュレーター
3色グラデーション赤5目→橙5目→黄5目46往復暖色系のダイヤモンド→試す
ピンストライプ白8目→黒2目49斜めの細い線→試す

3色グラデーション 3色グラデーション(往復編み)

ピンストライプ ピンストライプ(輪編み)

シミュレーターで遊んでいると、思いがけない模様に出会うこともあります。たとえば、2色×5目を32目/段・往復編みで試すと、矢羽根のような規則的なパターンが現れました。

矢羽根風のパターン 32目/段・往復編み(シミュレーターで確認

こういう「名前のない面白い柄」を探すのも、シミュレーターの楽しみ方の一つです。

チェック模様(ギンガム、タータン、千鳥格子など)をプランドプーリングで作れるかどうかについては、こちらの記事で数学的な構造から深掘りしています。


【時間がない方へ】 基本編はここまで。要点だけ知りたい方は「まとめ」へどうぞ。以下の深掘り編は、時間のある時にじっくりお読みください。


【深掘り】往復編みと輪編み——方向反転が生む模様の違い

ここまでの説明は、主に輪編み(round)の種類を多く説明していました(縦ストライプ、斜めストライプなど)。

実際にプランドプーリングを楽しんでいる方は、往復編み(flat) で編むのが主流です。 これは、往復編みは色の出方が左右反転するため、アーガイル模様のパターンになるためです。

輪編み:全段同方向

輪編みは筒状に編むので、全段が同じ方向(左→右)に進みます。色のずれは一方向に累積し続けます。

ずれ = 1なら、毎段1目ずつ色が右にずれていき、右上がりの斜めストライプが一方向に流れます。

輪編みの斜めストライプ 輪編み・ずれ=1の斜めストライプ(シミュレーターで確認

往復編み:奇数段は右→左

往復編みは、偶数段(0, 2, 4……)は左→右、奇数段(1, 3, 5……)は右→左に編みます。つまり、奇数段では編み目の並びが左右反転する のです。

同じずれ = 1で往復編みだと、偶数段は右にずれ、奇数段は反転して左にずれます。ずれが右に行ったり左に行ったりするので、ジグザグ模様 になります。2色だとシェブロン(V字)パターンですが、メインカラーの間に1目の細い線色を挟むと、ダイヤモンドを斜め線が横切るアーガイルになります。

往復編みのアーガイル 往復編み・3色のアーガイル(シミュレーターで確認

なぜ往復編みでアーガイルが生まれるか

数学的に整理すると:

  • 輪編み: 段rの開始位置 = r × ずれ量 (mod k)
  • 往復編み: 段rが偶数なら同じ。奇数なら セルの並びが反転

この反転操作が、単純な斜めストライプを「V字」や「ダイヤモンド」に変えます。

シミュレーターの「往復編み / 輪編み」切替で、この違いを確認してみてください。ずれ = 1で切り替えると、斜めストライプがアーガイル風に変わる瞬間が見えます。


【深掘り】1目で激変する——modの「不連続性」

プランドプーリングで一番面白い(そして厄介な)のは、1目変えるだけでパターンが完全に変わる ことです。

周期10目の糸で見てみます。

目数ずれパターン
19目9逆斜め(ほぼ垂直)
20目0縦ストライプ
21目1斜めストライプ
22目2急な斜め

20目と21目。たった1目の違いで、縦ストライプが斜めストライプになる。ゲージ(編み目の密度)が少しでもずれると、狙ったパターンが出ないということです。

実用上の対策

だからこそ、プランドプーリングでは 目数よりも色を優先する のが鉄則です。

  • 決まった目数を機械的に編むのではなく、色の切り替わりを見ながら編み進める
  • 色がずれてきたら、編んではほどいてを繰り返しながら帳尻を合わせる
  • 編み手のテンション(手加減)やかせの内周・外周の位置によって、1周期あたりの目数には誤差が出る

シミュレーターでは、色の周期と目数の関係から「理想的にはどんなパターンが出るか」を事前に確認できます。実際には色の帳尻合わせが必要ですが、「この周期の糸なら、だいたい何目でどんな模様になりそうか」の見当をつけてから編み始められます。


【深掘り】Bridges 2024——数学者が分類したパターンファミリー

2024年のBridges Conference(数学とアートの国際学会)で、Cameron Barbら(Laura Taalmanを含む研究グループ)がプランドプーリングの数学的構造を分析した論文を発表しています。

この論文では、パターンを3つのファミリーに分類しています。

ファミリー条件見た目
Stripeずれ = 0縦ストライプ
Diamondずれ = 1 または k-1ダイヤモンド(往復編み時)
Checkerboardずれ = k/2チェッカーボード

この記事で紹介したずれ量とパターンの関係は、この論文の分類と一致しています。論文ではさらに、2色以上の多色段染め糸でのパターン予測や、色の配分比率が不均等な場合の分析も行っています。

編み物の模様設計が数学の学術研究の対象になっている。「趣味の手芸」と「数学」は、思ったより近い場所にあるようです。


まとめ:mod演算は編み物の設計図になる

要素内容
核心の数式ずれ量 = 1段の目数 mod 色の周期
ずれ = 0縦ストライプ
ずれ = 1斜めストライプ(輪編み)/ ジグザグ(往復編み)
ずれ = k/2チェッカーボード風(1色1目なら完全な市松)
アーガイル往復編み+3色以上で菱形模様(本来はインターシャ編みで複数の糸を使い分けるが、PPでは1本の段染め糸で再現)
往復 vs 輪奇数段の方向反転がパターンを変える
最大の注意点1目の差でパターンが激変する

段染め糸の色がランダムに見えるのは、目数と色の周期が噛み合っていないだけ。modで関係を整理すれば、色を「設計」できます。

シミュレーターでスライダーを動かしてみてください。目数を1つずつ変えていくと、modの世界が手触りでわかるはずです。

実際にコロポックル(ハマナカの段染め糸)で編んでみた様子がこちら。シミュレーターで設計した通りに模様が出てくる瞬間は、なかなか感動します。


参考情報

検証に使った糸

  • コロポックル〈マルチカラー〉(ハマナカ):色の切り替わりが短めの段染め糸で、プランドプーリングの計算を試すのにちょうど良いです。この記事のシミュレーターで設計した模様を、実際にこの糸で編んで検証しました

関連書籍

参考URL

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