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スタバのサイズ名はなぜ独特なのか?──Ventiが"20"という意味だと知っていますか

スタバのサイズ名はなぜ独特なのか?──Ventiが"20"という意味だと知っていますか
【読了時間:約15分 / 要約のみなら3分】

この記事で分かること(3行まとめ)

  • Ventiはイタリア語で「20」── 20オンスに由来する命名
  • Short/Tallは英語、Grande/Ventiはイタリア語──混在には理由がある
  • Shortが目立たないのは、「アンカリング効果」を活用したブランド戦略の可能性がある

「サイズはどうされますか?」「えっと……」

──スタバのレジで、どれがMサイズに当たるのか分からなくて一瞬固まったこと、ありませんか?

マクドナルドなどファストフード店ならS/M/L。コンビニコーヒーもS/M/L。

ですが、スタバは、Short / Tall / Grande / Ventiという独自のサイズ名を使っています。

しかもよく見ると、英語とイタリア語が混在しています。Short(英語:短い)、Tall(英語:高い)、Grande(イタリア語:大きい)、Venti(イタリア語:20)。

なぜS/M/Lではないのでしょうか。なぜ、英語もイタリア語もあるのでしょうか?

この命名には、スターバックスの創業者がミラノのエスプレッソバーで受けた衝撃と、緻密なブランド戦略が隠れています。


結論:「わかりにくさ」こそが戦略

先に結論をお伝えします。

スタバのサイズ名が独特なのは、「わかりにくさ」そのものがブランド戦略だからです。

戦略効果
独自の言語を使う「スタバでしか通じない」特別感
イタリア語を混ぜるエスプレッソ文化への敬意と高級感
Shortを目立たなくするTallが「基本サイズ」に見える心理効果
S/M/Lを避ける他のチェーンとの差別化

わかりにくいのは欠点ではなく、計算された設計の可能性があるのです。


【基礎】各サイズの名前と意味

日本のスタバで注文できるサイズ

サイズ容量言語意味メニュー表示
Short(ショート)240ml英語短い小さく表示(Tallが起点に見える設計)
Tall(トール)350ml英語高い表示あり
Grande(グランデ)470mlイタリア語大きい表示あり
Venti(ベンティ)590ml(ホット)/ 710ml(アイス)イタリア語20表示あり

スタバのサイズ比較

Ventiが「20」である理由

ここが面白いポイントです。

Grandeは「大きい」という意味なので、イタリア語を知っていたら理解できる選択肢です。

しかしながら、一番大きいサイズのVentiの意味は「20」です。なぜ「20」が選択肢にあるのでしょうか?

実は、Ventiのホットドリンクの容量は20オンス(約590ml)。この「20」をイタリア語にしたのが「Venti」です。容量の数字がそのままサイズ名になっています。

ちなみにアメリカ限定の最大サイズTrentaはイタリア語で「30」です。TrentaもVentiと同じように、30オンス(約910ml)だから「30」なのです。

「大きい」→「20」→「30」。この命名の振り切り方は、なかなかユニークですね。

ホットとアイスで容量が違う?

あまり知られていませんが、アメリカのスタバではVentiのホット(20oz/590ml)とアイス(24oz/710ml)で容量が異なります。氷の分だけアイスのカップが大きくなっており、液体の量はほぼ同じになるよう設計されています(Food Republic)。


【歴史】なぜイタリア語?──ハワード・シュルツのミラノ体験

1983年、ミラノのエスプレッソバー

スタバのサイズ名にイタリア語が使われている理由は、創業者の一人、ハワード・シュルツの体験にさかのぼります。

1983年、当時スタバの小売・マーケティング担当だったシュルツは、出張でミラノを訪れました。そこで出会ったのが、イタリアのエスプレッソバー文化でした(Fortune)。

シュルツは著書『スターバックス成功物語』の中で、バリスタがエスプレッソを抽出しながらお客さんと楽しげに会話する光景を「素晴らしい劇場のようだった」と振り返っています。

シュルツはミラノの各地でこうした光景を目撃し、「この体験をアメリカに持ち帰りたい」と確信します。

Il Giornale(イル・ジョルナーレ)の誕生

1985年末頃にスタバを離れたシュルツは、1986年4月8日、シアトルにIl Giornale(ミラノの日刊紙の名前)というコーヒーショップを開店しました。イタリアのエスプレッソバーを再現したこの店では、オペラが流れ、メニューはイタリア語で書かれていました。

このとき生まれたのが、Short、Tall、Grandeという3つのサイズ名です。

「会議室で思いつくままに作った」

サイズ名はどうやって決まったのでしょうか。

シュルツのビジネスパートナーであり、Il Giornaleの最初の従業員だったドーン・ピノー氏は、複数の取材に対して「会議室で思いつくままに作った」と証言しています(HuffPost)。

綿密な言語学的リサーチや正式なネーミング会議があったわけではなく、シュルツとピノーが会議室でブレインストーミングした結果、Short/Tall/Grandeが生まれたのです。

英語→イタリア語への変遷

興味深いのは、最初の2サイズ(Short、Tall)は英語だったことです。

  1. Short / Tall(英語):最初から存在した2サイズ
  2. Grande(イタリア語):後から追加された大サイズ
  3. Venti(イタリア語):さらに後から追加

つまり、最初は英語で始まり、サイズが増えるにつれてイタリア語が導入されていきました。エスプレッソ発祥の地イタリアへの敬意と、ブランドの独自性を両立させる選択だったのでしょう。


【深掘り】S/M/Lを使わない心理学

【時間がない方へ】 ここまでで各サイズ名の意味とイタリア語が使われた経緯がわかります。ここからは、なぜS/M/Lを使わないのか──ブランド戦略と行動経済学の観点から深掘りしていきます。要点だけ知りたい方は「まとめ」へどうぞ。

Shortが目立たない理由──アンカリング効果

もともとスタバにはShort / Tall / Grandeの3サイズがありました。

そして、Ventiが追加された後、メニュー上でShortは小さな文字で控えめに表示されるようになり、Tallが視覚的な起点になっています。

Shortは注文可能で、メニューにも記載はあります。 しかしながら、パッと見てTallが「一番小さい」ように見える設計になっています。

これは、行動経済学のアンカリング効果で説明されることがあります(Kent Hendricks)。

  • Tallが視覚的な起点になり、「一番小さい」ように感じる
  • Tallは350ml。日常的には十分な量なのに、メニュー上は「一番下」に見える
  • 結果として、中間のGrandeを選びやすくなる

3つの選択肢があると、人は真ん中を選びがちです(妥協効果、または極端性回避)。Tall / Grande / Ventiの3択なら、Grandeが「ちょうどいい」ように感じます。

実際にはGrandeは470ml──旧来の「一番大きいサイズ」です。でもメニュー上は「真ん中」に位置します。

この心理的なトリックにより、平均の注文単価が自然と上がる構造になっています。

ただし、スタバが意図的にこの心理効果を狙ってShortを隠したのかどうかは、公式には確認されていません。あくまで実際のメニューをみて「結果的にそうなっている」という観点での考察です。

そういえば──筆者自身も、マクドナルドやタリーズやドトールなど他のチェーンでSサイズを頼んだ記憶はありますが、スタバではShortを頼んだことないかも。

みなさんはどうですか?

独自言語が生む「コミュニティ感」

S/M/Lのサイズ選択は一般的です。コンビニでもファストフードでも使われています。

Short / Tall / Grande / Ventiのサイズ選択は、スタバでしか使わないですね。この「スタバでしか使わない言語」が、意図するかどうかにかかわらず、コミュニティ感を生んでいます。

初めて来た人は戸惑い、常連客は自然に使いこなせる。この「慣れ」の差が、リピーターに「自分はスタバの文化を理解している」という小さな満足感を与えます。

「サードプレイス」との関係

この独自言語は、スタバの 「サードプレイス」(第三の場所)戦略とも結びつきます。

「サードプレイス」とは、社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した概念で、家(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、くつろげる第三の居場所のことです。ハワード・シュルツはこの概念をスタバの核に据えました。

独自のサイズ名は、「その空間に入った」という感覚を強化する装置として機能しています。マクドナルドでS/M/Lを頼むのと、スタバでGrandeを頼むのでは、体験の質が異なるのです。

少なくとも利用者に無意識に、そう「感じさせる」ことに成功しています。


【比較】他ブランドのサイズ戦略

スタバ以外での、サイズ戦略の例をピックアップしました。

マクドナルド:わかりやすさ重視

マクドナルドはS/M/L(Small / Medium / Large)。誰でも迷わず注文できます。

面白いのは日本のマクドナルドで、2025年5月に 「グランドサイズ」が期間限定で復活 しました(2019年以来、6年ぶり。フライポテトとドリンクが対象)。好評で容器が尽きて早期終了する店舗が続出しましたが、レギュラー化はされていません——あくまで「特別感のある期間限定」という位置づけです。

サブウェイ:長さで表現

サブウェイのサイズはレギュラー(6インチ/約15cm)とフットロング(12インチ/約30cm)。物理的な長さで表現しています。日本でも同じ名前です。アメリカでは「5ドル・フットロング」キャンペーン(2008年)が大ヒットし、2009年8月末時点でフットロング単体の売上が約38億ドルに達しました(NBC News)。


【深掘り】Shortサイズの秘密

表記はあるけど目立たない

実際のメニューを見てみましょう。

日本のスタバでは、Shortサイズ(240ml)はメニューに記載されていて注文可能です。ただし、Tallの価格が大きく表示されているのに対し、Shortは小さな文字で控えめに記載されています(macaroni)。フラペチーノなど一部のメニューではShortに対応していない場合があります。

価格はTallより40〜50円ほど安い程度。容量はTallの約69%ですが、価格差は10%程度。コスパで考えるとTallのほうがお得です。

エスプレッソの濃さが違う

ここが意外と知られていないポイントです。

サイズショット数ミルク(概算)コーヒーの濃さ
Short(240ml)1約210ml濃い
Tall(350ml)1約320ml薄め
Grande(470ml)2約410ml濃い(Shortとほぼ同じ)
Venti(590ml)2(アイスは3)約530mlやや薄め

ShortとTallはエスプレッソの量が同じ(1ショット、約30ml)です。つまり、Tallはカップが大きい分だけミルクが増え、コーヒーの味が薄まります。

1ショットのエスプレッソに対するミルクの割合で比較してみると:

サイズショットエスプレッソミルク(概算)エスプレッソ比率
Short1約30ml約210ml約12.5%
Tall1約30ml約320ml約8.6%
Grande2約60ml約410ml約12.8%
Venti2約60ml約530ml約10.2%

ShortとGrandeはエスプレッソの比率がほぼ同じ(約12〜13%)。Tallが最もミルク寄りで、Ventiもやや薄まります。

「コーヒーの味をしっかり感じたい」ならShortかGrande。そして価格面ではGrandeがTallより80〜100円高い程度でエスプレッソが2倍になるので、コスパ×濃さのバランスではGrandeがお得です。


まとめ:たかがサイズ名、されどサイズ名

Short、Tall、Grande、Venti。

シアトルの会議室で2人が思いつくままに作ったサイズ名が、世界4万店以上で毎日使われる「共通言語」になりました。

英語とイタリア語の混在は、ミラノのエスプレッソ文化への敬意の現れ。

S/M/Lを避けた独自言語は、意図するかどうかにかかわらず、ブランドの差別化とコミュニティ感を生んでいます。

メニューで目立たなくなったShortは、アンカリング効果で平均注文単価を押し上げている可能性さえあります。

たかがサイズ名ですが、その3〜6文字の中に、ブランディングの教科書のような戦略が詰まっています。

次にスタバで「Grandeで」と注文するとき、ちょっとだけこの記事のことを思い出してもらえたらうれしいです。


参考情報

関連書籍

  • 『スターバックス成功物語』 ハワード・シュルツ、ドリー・ジョーンズ・ヤング(日経BP):シュルツ自身がスタバの誕生と成長を語った自伝。ミラノでの体験やIl Giornaleの経緯が詳しく描かれています
  • 『スターバックス再生物語』 ハワード・シュルツ(徳間書店):サードプレイス哲学の根拠となる一冊
  • 『予想どおりに不合理』 ダン・アリエリー(ハヤカワ・ノンフィクション文庫):アンカリング効果・選択の心理学の古典的名著

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